局でひとり筆をとりて

普段は灰も被れないオタクよりの高校生が、硝子の靴ではなくキーボードと美しい文化を以て時には古典の世界を賞賛し、時には世間をぶった斬ります

清らかに徒然に ~私の大好きなお二方で執筆をしてみようの巻~

警告!!!

 

事前にお伝えしなければならないことがあります。

まず、この小説(?)は私がちょっと妄想を止めずに勢いに身を任せて書いている為、皆様のお目汚しとなる可能性があります。

よって、下のどちらかにあてはまる人以外は、私の別の記事で我慢願います・・・スイマセン。

①古典が好きな方

②夢小説などが平気・・・というか中二病気味の人

どちらかを満たす人はご覧下さい。

というかこれよりも清女と能書家編を見て下さい!

後、中のネタでわからないものは清女と能書家編で詳しく書いてあるので探してみて下さい。

 

 

 

 

「では失礼します」

私、清花は職員室の出入り口前で軽く頭を下げると、廊下を歩き出した。

放課後。もうクラスメート達はそれぞれ部活へ行ってしまっていた。

「・・・水の匂いがする」

ふと外を見ると、明るいのに雨が降っていた。夕焼けの光を受けながら、地へ降りていく雫が美しかった。

狐の嫁入りかあ」

イマドキこんな言葉使う高校生は珍しいかな?と首を傾げながら階段をのぼる。

 正直、自分がクラス内で浮いた存在であることは自覚している。

今運んでいる提出物のノートやプリントだって、別にどうしても私がやらなければならない仕事ではない、というかちゃんと係がいる。

唯単にそいつに任せると自分の手元に戻ってくるのが遅くなるので自主的にやっているだけだ。

しかし、またいい子ぶっちゃって・・・と言われるという面倒臭い自体になる。慣れたけど。

それはそれで構わない。私は自分に正直に行動しているだけだ。後悔しないし、人に理解してもらいたいと思ってもいない。

「まあ価値観を共有できることほど嬉しいことはないけど・・・それは難しいしね」

水音に合わせて光るパッション色にうっとりしながら、自分にとってお馴染みの教室へ向かう。

「・・・ん?」

教室内に人影が見える。

「おかしいな・・・まだ帰ってない人がいるの?」

気にしない、と言っておいてあれなのだが、やはり気まずいので友達以外の人と二人きりになるのは気が進まない。

「嫌な人でありませんように・・・あれ」

おそるおそる引き戸の扉を開けると、意外な人がいた。

一人の少年が机に突っ伏して寝ている。

「行成君・・・?」

中途半端な時期に転校してきた仏頂面な少年。

真面目な見た目通り、成績は極めて優秀だが、殆どの級友が言葉を交わしたことがない。

私の友達が声を掛けてみたらしいが、彼女曰く「なんだか興ざめする」らしい。

話が続かないというか、相手に合わせる気がないという印象で、一分も経たず会話が終了した・・・と。

改めて謎の級友を見た。

まだ外で降っている光が彼の頬を照らしている。元々整った顔立ちをしていたが、こうして見ると一層美しく見えた。

「綺麗」

私が呟いた声が聞こえたのか、少し乱れた髪の頭がピクリと動いた。

ぼんやりとした虚ろな瞳と目が合ってドキリとする。

「・・・おはようございます」

「へ?・・・お、おはよう」

 初めて真剣に見た瞳は、まっすぐと見据える凛々しさを帯びていて、妙に緊張する・・・のに、

「なんでおはようなのよ。そりゃあ、あなたからみたら起きたばかりかもしれないけど・・・」

「・・・」

私の言葉には何も答えずに、そっぽを向いてしまった。

そして、窓を見上げて、ぼそり。

「・・・狐の嫁入りですか、美しいですね」

「え?」

なんだこいつは。

・・・面白いではないか、少なくとも私は面白い。

机の上に放り出してあるのは、今日出たばかりの課題と開いたままの本。

課題のプリントは既に綺麗な字でびっしり埋まっており、終わって本を開いたまま寝てしまった・・・というところだろう。

堅物の癖に、字は女子の様に綺麗。しかも自然と天気雨を狐の嫁入りいってしまうところも含め、非常に面白い。

「なんか・・・面白いね、行成君」

彼はそう言われて狐につままれた様な顔をした。雨に紛れてやって来た御嫁さんの霊がとりついたのかもしれない。

「そうですか?俺を面白いという清花さんの方が面白いと思いますが」

「やっぱり面白いなあ。私、そういう人すっごい好きだよ」

「え」

行成君は目を逸らしてしまった。別に顔が赤い訳ではないので、恥ずかしかったのか呆れてしまったのか分からなかった。

「で、清花さんは何をしに」

「私は、先生に預かって頂いてたノートを返しに」

韻を踏んだ応答で返してみる。

私の意図を理解してくれたのか、行成君は少し笑った。

初めて微笑んだのをみた気がする。笑った顔も綺麗だった。

その顔を見て、何だかつい言ってしまった。

「なんか・・・行成君ってさ」

「はい?」

枕草子に出てくる行成に似てるよね」

言ってから、しまったと思った。こんなことを知っている人などなかなかいまい。

私は誰にも古典の知識で劣ったことはない。優秀な行成君にも国語総合の点数で学年一位を譲ったことはなかった。

能書家、藤原行成枕草子をしっかり読んでいないと分からないレベルのマイナーな人物なのに、思わず口をついてでてしまった。

どうしよう、謝った方がいいかな?と顔を窺うと、

「ああ、頭の弁ですか」

「・・・!」

私は天にも昇る様な心地がした。

こんなことってあるかしら!

反射的に抱えていたノートをそこら辺の机に放り出して、行成君の手を取っていた。

「?」

「ああ嬉しい!ちゃんと分かってくれる人がいるなんて!」

「あの」

「ありがとう!ありがとう!本当に嬉しいよ!」

「えっと・・・清花さん、手が、気になります」

戸惑いを浮かべた表情を見て、ようやく私は自分の失態に気がついた。思春期の男の子に何をやっているのだ。

「あっ!・・・ごめんなさい・・・凄く嬉しくて・・・」

「それは、さっきので、よく分かりました」

私は自分でやっといておかしいかもしれないけど、火照ってしまった。行成君も平然としているように見えて、言葉が途切れ途切れになっている。申し訳ない。

「清花さん」

「う、うん。何?」

「俺も、清花さんって清女みたいだと思います」

せいじょ→清女→清少納言

この変換ができる高校生というのも何だか珍しい。

「そうかな?」

「・・・」

行成君は、少し考える様な仕草をしてから、ゆっくり開口して、

漢詩のこともよく知ってるし、正直者だし・・・喜んだ時の素直な反応とか・・・」

言われてみればそうかもしれない。

なんだか一気に平安と行成君に親近感がわいてしまった。

だから、もう少しこの人と話してみたくなった。

「・・・ねえ、行成君っていつも敬語だよね。もっと気楽にしてくれていいんだよ?」

「うーん・・・。何だかさっきの会話で余計にそれが難化しました」

やはり仏頂面のままでそう答える。

「どうして?」

行成君は答えにくそうにしていたけれど、やがて、

 「もし清花さんと俺の生前が清女と能書家だったら、清女の方が六つ程年上だから・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

ぱちくりとした私を見て、行成君は不安そうな目で私を見上げた。「失礼だったかな?」と言外で言っている様に。

しばらくお互いに目を合わせたまま、何も言わなかった。外は小雨になっていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぷ」

沈黙を破る様に私は吹き出していた。面白すぎる!

朴念仁の堅物が生前とかいう言葉を真剣に使っている上、

「本当になんでそんなに真面目なのよ!・・・ああ、面白い!」

一通り笑ってから息を整えて、

「でもさ、あの頃は男女差別があったじゃない?現代語訳を色々調べてると、結構あの二人ってタメ口も使っていたりするし。だからそんな律儀にならなくてもいいんじゃないかな?」

私が話していく内に行成君の目から不安が消えていったので、畳み掛けてみる。

「遠慮しなくたっていいんだよ?むしろもっと図々しくても。呼び方だって、さん付けにしなくていいから」

行成君はしばらく私を上目遣いに見ていたけれど、椅子から立ち上がった。今度は私が見上げる番になる。

「じゃあ・・・清花」

ちゃん付けの領域を通り越した呼び捨てにまたドキリとしていると、行成君は私の持っていたノートやプリントを半分程抱え・・・いや、半分より少し多い。

「早くこれ、やってしまおう」

「・・・手伝ってくれるの?でもそれ、少し量が多いと思うんだけど」

私が突っ込むと、彼は何も言わずにまたそっぽを向いて、ノートやらを持ち主の机に置き始めた。

「・・・なんでやってることは優しいのに急に反応が冷たくなるかな」

「俺は冷淡な下部なので仕方ないと了承して欲しいな」

尖りかけた私の口がついにやけてしまった。

「お餅じゃないの?」

「生憎、ここに餅はない」

小さく笑いかけた私を見て、彼もまた笑い返してくれた。

行成の顔に掛かった光はもう煌いておらず、雨中の婚礼はもう終わってしまっていた。